特別講演会『高齢者のためのデザイン』

産総研:ジェロンテクノロジー研究フォーラム2010

お付き合いのある大学の先生のお誘いで、ジェロンテクノロジー(加齢工学)の講演会に参加。人間工学関連学会で米国最大規模のHuman Factors and Ergonomics Societyの会長も勤めたArthur D. Fisk教授Wendy A. Rogers教授のお二人。大学の研究では高齢者の視覚探索行動について調べていたこともあり、この加齢工学分野の将来性には期待している。

所感

高齢者に優しいデザインは、みんなに優しい

これはホントにそう思う。クルマのメーカーがこぞってF1に参入する理由のひとつも、それで主要事業が鍛えられるから。中途半端な情報設計、ユーザビリティの難があっては、高齢者には通用しない。
蛇足だが、マミオンさんの運営している下記のブログは毎回非常に示唆に富む内容で、考えさせられることが多い。おすすめ神ブログ。

使いやすさを考えてみる。(アクティブシニア・シルバー層の現場から)

ロボットと生活するということ

HRI(Human Robot Interaction)という言葉が印象に残った。これまではロボットが中心で、ロボットができることについて考えていたのだが、これからはロボットに何をさせるべきか、人間とどう関わっていかせるかを考えることが必要と。
そしてロボット開発については何といっても日本が先進国。

産総研:プレス・リリース 人間に近い外観と動作性能を備えたロボットの開発に成功

まだ不気味の谷を越えていない気がするが、こういう動画を見るとロボットと感情を交わす日がすぐ近くまで来ていることを実感するし、実際Roombaなんかは既に生活に入ってきてもいる。

ソーシャルゲーム×高齢者?

今回の講演ではセンサー技術などのハード的な話が多かったが、一人暮らしのお年寄りを支えるひとつの方法に、ソーシャルグラフによるサポートがあるのではと個人的には思っている。お年寄りが定期的にソーシャルゲーム等に参加することで、その人の様子を伺うことができるし、日々の生活のハリにも繋がるのでは。
今のところのネックはパソコンの複雑なUIであるが、任天堂WiiiPadの登場によって、ここは克服できるように思う。高齢者の認知特性を考慮したiPhoneアプリに向けて、SDKの勉強しておこうかな…。


Principles of Human Factors Approaches for Gerontechnology

Designing for Older Adults

Designing for Older Adults: Principles and Creative Human Factors Approaches

Designing for Older Adults: Principles and Creative Human Factors Approaches

※「高齢者のためのデザイン」として翻訳中

Design Guideline

 Minimize clutter
 Ease navigation
 Organize information
 └浅く広い構造の方が適している
 http://www.nlm.nih.gov/pubs/checklist.pdf

Good Design for Older Adults is generally Good for Everyone!

Designing Collaborative Machine Assistants for Older Adults

Aging-in-Place

 Aware Home:実験的な住まいを用意
 センサー群が住人を常に監視できる

Privacy Issue

 ビデオカメラで撮られるのはどう思うか?⇒ネガティブな反応
 老人ホームとカメラ付き自宅のどちらで老後を過ごしたいか?⇒カメラ付き自宅

 

Human Robot Interaction

 Activities of Daily Living(ADLs)をロボットがサポートする
 「ロボットができること」から「ロボットがすべきこと」の議論を重視
 介護施設に入るよりは、自宅でロボットのサービスを受けたい
 iCat、GATSBII

コプロシステム マーケティングセミナー

プロトタイピング・スタジオ設立記念セミナー
「インターネットの新潮流と人間中心デザインの展開」開催のお知らせ

所感

会場は全部で30人程度で思ったより少人数開催。現在のWebの潮流と、これからの変化を読み解くポイント、それに対する人間中心設計の役割というテーマの講演。棚橋さんのブログで読んだトピックがいくつか含まれていて、今回の話でそれらが体系化、整理された感じ。
個人的には「人間中心設計が何を可能にするか?⇒小さな未来を拡張していく、当たり前の制約を乗り越える」という部分が特に印象に残った。ちょうど午前に出ていたフォーラムでもHCDの効果について触れていたが、それとは少し違った切り口で考えさせられた。
また予定には"プロトタイピングスタジオのサービスデモ"とあったので、どこかの部屋を見学させてもらえるのかと思ったが、実際はプロトタイプ専任の人材を用意し、スピーディに動くものが作れる環境を整えた、とのこと。プロトタイピングの重要性が増している中で、こういう体制は参考になるなと思った。確かに動きのテストなどは毎回開発が上がってくるまで試せないことが多いので、社内でもプロトタイプスペシャリストを検討する価値あり。

キーフレーズ

Webの潮流

 "Web is dead."(C.アンダーソン)
 ワイドオープンWebからセミクローズドプラットフォームへ
 無料広告モデルから有料フリーミアムモデルへ
 "ユーザーとコンテンツの間に余計なものが何もない"(J.アイブ)
 "「もの=設計思想」と「つくり=職人仕事」を分ける"(吉川良三)

メディア論(M.マクルーハン

 "メディアとは我々の身体を拡張したもの"
 新しいメディアにより、社会の見方やあり方が変わる

すべてのメディアは人間の機能および感覚を拡張したものである。:DESIGN IT! w/LOVE

開放されたユーザー体験

 モバイル、タッチ式UI、パッケージ、テキスト入力 etc.
 ユーザーの行動は開放されたが、デザイナーの思考はどうか?
 既存のデザインパターンは、未来の可能性を矮小化しイノベーションを阻害する

検索体験で満ち溢れた世界

 クエリ入力だけが検索ではない
 デザインド・アミニズム
 センサー群が状況を読み取り、適切な情報を提供する仕組みへ

おしゃべりな未来

 Twitter≒冷たすぎるメディア(⇔TV、書籍≒熱いメディア)
 ハイコンテキストで、参加しないと価値がわからないもの
 電子書籍 グーテンベルク革命からも新しい本を作る価値に気づかなかった
 ユーザーとクリエイターの境があいまいになる

変化するインターネット利用モデル その3つのポイント ? 市場のお手入れ
版(version)の危機:DESIGN IT! w/LOVE

人間中心デザインは何を可能にするか?

 上記のような未来に先んじて取り組むのは大変
 小さな未来を作っておいて、それを拡張していく
 当たり前すぎて気づかない制約を乗り越えて、新しい体験価値を生み出す
 ISO人間中心設計プロセス+意味論的デザイン+メディア論
 デザインとはものの意味を与えることである(C.クリッペンドルフ)
 HCI⇒HFI(Future)
 プロトタイプを繰り返すことで未来を見えるようにしていく

人間中心設計フォーラム2010

パシフィコ横浜で行われた人間中心設計フォーラム。昨年もそうだったが、大企業におけるHCDへの取り組み事例は、ほぼここでしか情報が入ってこないので貴重な機会である。

人間中心設計フォーラム2010
〜 組込み型ソフトウエアのためのユーザビリティと事例 〜

Togetter - 「人間中心設計フォーラム2010のまとめ」

NECにおける人間中心設計へのアプローチと事例


NECユニバーサルデザイン

 「Accessibility」「Usability」「Innovation」
 Innovationが入っているのが特徴的

NECのHCDプロセス

 「ユーザ情報の理解と把握」「目標の明確化」「設計による解決」「ユーザ評価」

HCD活用事例

 羽田空港のフライトインフォメーション
  ⇒フォント評価はモニター11名で行った
 堅牢ノートPC Shield PRO
  ⇒活用事例をお客さんに見せることで、新たなアイデアを引き出した

HCDを実現する組織・体制

 社内モニター700人、UDモニター40人
 社内SI標準へのHCDプロセスの組み込み

個別の感想

NECで言う「ユニバーサルデザイン」は、いわゆるUXと同義の模様。面白いと思ったのは、Innovationの事例で出てきた堅牢ノートPCの例。活用事例をお客さんから集め、それをまた別のお客さんに見せることで新たな活用アイデアを聞き取っていくらしい。少しユーザー参加型デザインに近いのかなと思った。
またシステムインテグレーション案件において、「HCDプロセスが標準」とされているのは地味だが素晴らしいこと。マネジメント層の理解がないとここまではできないはず。さすが老舗SIer

Epsonにおける、モバイルビジネスプロジェクターのHCD開発事例


モバイルプロジェクターのHCD適用事例

▼利用実態調査(2007年)
  利用フローと課題点を3mの巻き物にまとめる
▼プロトタイピング(2008年)
  社内モニターから10名が参加
▼発売(2009年)
  操作時間をチャート化し、課題を探った
  「かんたんセットアップ」部分のNEM比が高いことが判明、改善へ
▼後継機種発売(2010年)
  ⇒HCDプロセスに終わりなし!

社内モニター制度

 運用して10年目
 現在600名の登録がある
 社内でモニター参加意志のある人をDB化

個別の感想

プロジェクターの自動投影調整機能について、綺麗なHCD適用事例を見せていただいた感じ。ただしプロジェクト期間が年単位であったりして、Web業界とはちょっとスピード感が違うなと思った。ユーザー調査の結果について、3mの巻き物に課題を書くという方法は面白い。(そういえば前職のプロセス改善コンサルティングでも、大きな紙に全ての業務プロセスを印刷していたっけ…。)Webサービスで言うストーリーボードにも似ていて、メンバー間で調査結果を共有するのによいかもしれない。
また社内モニター制度がしっかりして運用されているようで、規模や集め方などが非常によい参考になった。

京セラにおける人間中心設計へのアプローチと事例


UCDに期待できる効果

 「満足度向上」「ブランドイメージ向上」「コスト削減」「差別化技術開発」

「すぐ文字」の事例


使いやすい機能 | W65K | 京セラ

UX的な目標を設定した
  どう感じてほしいか?どうすればそれを測れるか?
  広告、POPのユーザー評価も行った

個別の感想

UCDを社内に浸透させる道のりについて、定量調査に対する違和感からマネジメント層への根回しの部分まで含めて共有していただいたので、非常にリアリティが感じられる内容だった。UCDの効果について改めて整理できたのは、今後の自社内における説得の機会でも役に立ちそう。
「すぐ文字」の機能については、自分もそれに惚れ込んで京セラの端末を買ったことがあるほど(当時のレビュー参照)。HCDを活用したよい事例があると説得力も増すので、こうしたものを自社でもぜひ積み上げていきたい。

イードマーケティングセミナー2010

イードさんの毎年恒例になっているマーケティングセミナーに参加。今年は「エスノグラフィ」「スマートフォン」「中国」と流行を押さえてきた様子。全体的には初学者向けセミナーで、無料なので仕方ないかという印象。

株式会社イード :: 『エスノグラフィーの応用術〜スマートフォン×中国を例に〜』
(※当日のスライド資料もリンク先から配布申請可能)

Togetter - 「イードマーケティングセミナー2010」

なぜエスノグラフィなのか?

□ 第1部 基調講演【エスノグラフィーとは何か?】
−13:10〜14:10 「人間中心デザインとエスノグラフィック・アプローチ〜なぜ今、注目されているのか?」
産業技術大学院大学助教 安藤昌也

それでも“UX界のプリンス”安藤先生の講義は得られるインサイトの多いものだった。エスノグラフィの特徴、考え方、効果などがよくまとまっていて、社内布教等に引用できそうなトピックが満載。個人的には下記フレーズが印象に残った。

  • エスノグラフィは「機会発見」「仮説立案」のための調査である
  • 調査結果事態が、いつも発見を生むわけではない
  • 生活者の当たり前の行為・価値観が導出されることが成果
  • ユーザーモデリングの3階層(安藤, 2010)を意識したモデリング

また講義終了後のやりとりも興味深かったので紹介。今回はエスノグラフィありきのセミナーだったが、このワードバズってる昨今で、ちゃんとその位置付けや限界、メリットデメリットを把握して活用しないと力を発揮できないのではと思った。

中国現地調査

□ 第2部 エスノグラフィーを活用した調査事例
−14:15〜15:15 「中国市場理解のためのエスノグラフィー(中国スマートフォンユーザーを例に)」
株式会社イード 菅野直樹・美谷島絵里

中国のスマートフォンユーザー3名に対しての調査だったが、自分も下記Tweetと同じ感想を持った。何だか物足りないというか…もう少し深く突っ込んだインタビューを期待してしまうのだが。

1dayエスノ・ワークショップ

□ 第3部 エスノグラフィー体験ワークショップ
−15:25〜16:05 「1dayエスノとその実践方法(家庭用洗濯機を例に)」
株式会社イード 森原悦子・前田千晶

10分間の洗濯動画を見ながら、気づいた点をポストイットに書き出すというミニワークショップを実施。実際の1dayエスノでは、このあと統合作業もつくらしい。やらないよりはやった方が、という感じか…。

MCSの宣伝

□ 第4部 国内スマートフォンユーザー動向のご紹介
−16:10〜16:50 「iPhoneなのか、Androidなのか? データでみるスマートフォン市場」
株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長 遠藤諭

ASCII.jp:MCS Elements発表──iPadで知るコンテンツ利用実態

ここはほぼ宣伝。MCS 2010というネットユーザー大規模調査のデータの紹介に終始。MCSはiPadアプリも出しているので前から少し興味はあったが、いかんせん高額で個人ではなかなか手が出ない。

ブログ再稼動

NHN_UXデザインチーム運営により、ブログを再稼動させます。
投稿内容は主に下記2点です。

・参加したセミナー情報の共有
・メンバーのブックマークから、UX関連情報を自動投稿
 (はてブのタグRSS⇒feedremix⇒自動メール投稿)

以上よろしくお願いします。

第3回情報デザインフォーラムに参加

第3回情報デザインフォーラム- インタラクションデザインの未来に参加してきました。100名の定員にキャンセル待ちが20名以上出たとのこと。

千葉工大は本当に駅前で、環境は悪くないなぁと。

増井さんの公演

公演内容は、ディスカッションに参加された小林さんが一番詳細に様子を書かれています。

Webサービスのポリシー

自らWebサービスを作るときは、「登録なし、パスワードなしで使えるもの」というコンセプトでやっているそう。どうしても認証を行いたい場合は、画像認識によるオリジナルの認証方法を開発してまで、そのあたりを貫いていました。

Ubicomp

ユビキタス・コンピューティングとWebサービスの連携。連携と言うよりは、垣根がなくなると表現したほうが正しいかもしれません。その代表例がmixi『萌香たん』。あぁ、やっぱり時代はTwitterですか。

直感的なUIとは

なめらか(可逆的、連続的)な動きを持ち、目的-操作の対応付けがうまくされているもの、との説明でした。これを聞いて思い出したのはWiiリモコン。加速度センサー、ポインタ、少ないボタンなど、ユビキタスUIの最終兵器なのではと再認識しました。


ディスカッション

基本的に増井さんはエンジニア体質で、「ユーザーに聞いてはいけない」というのが持論のようです。討論の中では、IDEOのブレストなどは全否定。あんな素人が集まって1週間でいいものができるわけないでしょ、と。…会場の凍りつく空気(笑)。

この場でその発言はないなぁと思いましたが、あとで調べて見ると(「界面潮流」第25回 ユーザは使いよう. WIRED VISION)、対象としているプロセスが少し違う模様。まぁ個人的には両方あると思います。


ポスターセッション

学生の発表が10数件と、企業では株式会社コンセントの方が用意していました。

以前Webで見かけた韓国オンラインゲーム企画のペルソナ構築プロジェクトがあったので、コンタクトを取れたのが収穫でした。